You've got a friend

NINE DIRTS AND SNOW WHITE FLICKERS [DVD]

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鬼束ちひろの歌う「You've got a friend」と、

絢香が歌う「You've got a friend」を聴き比べてみる。

するとそこに、この二人の決定的な違いを聴きとることができる。



絢香は、確かに歌うのがうまい。

声の響き、テクニック、どれをとっても、鬼束ちひろはかなうまいと思う。


それでは、絢香の歌が、心に響くかといえば、そうではない。

「あぁ、上手だな」と心底感動させられるが、それ以上ぐっとくるものがない。


対して鬼束ちひろの歌は、心にぐっとくる。

DVDを見ていても、表情が既に神がかっている。

やさしく語りかけるような、諭すような。

決して大声を張り上げて盛り上げたり、技巧をこらすではなく、

そっと語りかけてくる。


この「You've got a friend」に関しては、それが正しい気がする。

もちろん、これは自分の意見であって、鬼束ちひろという歌手を私が

愛しているから、ということもあるだろう。

これを見ると、とても痛々しい。

しかし、ファンはこの痛みを共有することでしか、

鬼束ちひろには近づけない。


最近の鬼束ちひろは、ファンを寄せ付けない強さを身につけたと思う。

雑誌のインタビューを読んでいても、「理解」を要求しているとは、まるで思えない。

「理解などは、誤解の総体にすぎない」と言われるが、

所詮理解してもらえないなら、最初から理解してもらおうなどという無駄な努力は一切せず、自分の気持ちの赴くままに生きていこうという意志が感じられる。

その変化は、時としてファンを脅かす。

彼女はその意味で、「帰り路をなくし」たのだ。

衝撃の復活、後のコンサート中止。

「帰り路」を探しに来たはずが、そんなものは無いのだと知った時の絶望。


それでも生きていかなければならないとは、なんて過酷なのだろう。

彼女は若すぎた。

年齢なんて関係ない、と人は言うかもしれません。

しかし、年相応という言葉があるように、人は、その年代には知ってはいけない世界、というものがあるはずです。

その世界の重みに耐えきれず、つぶされてしまうこともあるでしょう。

鬼は、歌の魔力にトリツカレ、今日も歌い続ける。