『教養としての大学受験国語』

教養としての大学受験国語 (ちくま新書)

教養としての大学受験国語 (ちくま新書)

 文化系トークラジオ Lifeの「現代の現代思想」の回を聴いてから、自分にとっての「思想」とは何かを考えている。

 私が「思想」に触れるきっかけになったのは、『教養としての大学受験国語』を読んだのが最初だった
 世の中を、こんな風にも眺めることができるんだと、胸を躍らせたのが、ちょうど10年前ぐらいになる。

 大学生になってからも、『教養としての大学受験国語』で示された知の羅針盤はそれ程変化していなかった。ジェンダー論・国民国家論・身体論などは、むしろ私が大学生の時に花開き、新書でも興味深い本が続々と出版された。

 ただ、「思想」の寿命は短いもので、短い間に爛熟期を迎え、やがて衰退していった。『ナショナルヒストリーを超えて』などを読み、国民国家の暴力性に憤っていた大学生時代が、なつかしい(恥ずかしい)…。

 石原千秋先生も、「僕の提示した全体的な<知>の状況もさほど変わっていないから、この本の寿命も十年はあるとみている。」と述べている。

 あれから十年では、石原先生の提示した<知>の状況は、いかに変化したか。
 ちなみに、以下に示すのが、石原先生が示した<知>の状況である。

第一章 近代
?抑圧する近代合理主義
?自然と共同体からの解放

第二章 二元論
?脱構築という方法
?子どもの発見と二貢対立

第三章 自己
?自我を癒す
?近代的自我からの脱却

第四章 身体
?「身体をもつ」ことと「身体である」こと
?私の欲望は他者の欲望である

第五章 大衆
?いかなる権威をも否定する権威
?小さな差異を生きる「わたし」
?都市が大衆を生み出した

第六章 情報
?弱者のふりをした権力
?感性の変革の語り方

第七章 日本社会
?共同性と公共性
?個人と世間と社会

第八章 国民国家
?方言は言語に憧れる
?日本語と想像の共同体

 一つ考えられるのは、「アーキテクチャ」であろう。

 『思想地図』vol.3の前文で東浩紀は、「わたしたちは、イデオロギーではなく、アーキテクチャに支配された世界に生きている」と述べる。

 

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

 

 二つ目は、「暴力装置」としての国家論。萱野さんの議論が参考になるだろう。

『国家とはなにか』

『国家とはなにか』

 三つ目は、「マルチチュード」としての大衆論。もちろん、ネグリ・ハートの議論を参照することになる。

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)

 四つ目は、「情報社会論」。10年前と今で、ネットの環境が大きく変化している。

アーキテクチャの生態系

アーキテクチャの生態系

CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ (NT2X)

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情報の波の中で、どう生き抜けばいいのか?著者は、「ラク」をすることとは、先人の知恵を借り、凡人では何十年もかかってたどり着くかどうかわからないノウハウを吸収することだ、と述べる。「下手な長考休むに似たり」

ラクをしないと成果は出ない

ラクをしないと成果は出ない

 五つ目は、「公共性」論。稲葉振一郎さんの議論とは別に、公共的な議論を成立させる条件や、郊外化した社会で、いかに公共的な市民を立ち上げるか、など。

「公共性」論

「公共性」論

 六つ目は、「コミュニケーション」論。ビジネス社会でも、大流行の議論。鷲田清一も、『聴く』ことの力などど力説しているし。

「聴く」ことの力―臨床哲学試論

「聴く」ことの力―臨床哲学試論

プロカウンセラーの聞く技術

プロカウンセラーの聞く技術

 
 七つ目は、教育という装置について。自分自身をどう相対化できるかの実験。

オレ様化する子どもたち (中公新書ラクレ)

オレ様化する子どもたち (中公新書ラクレ)

学力と階層 教育の綻びをどう修正するか

学力と階層 教育の綻びをどう修正するか

 八つ目は、知性について。現代社会で「知的である」とはどういうことか。「知的である」ことに、学問の方法が有効であることを教えてくれる。

できる大人はこう考える (ちくま新書)

できる大人はこう考える (ちくま新書)

 と、つらつら考えてきました。
 教育する立場として、高校生に新しい知の羅針盤を与えてあげたいと考えています。簡単に手に入り、高校生でも読みやすい本があれば、是非教えてください。

 九つ目は、生命として生きることについて。
まずは、福岡先生の本の中では、最も平易な解説本となっている以下の著書を。

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

生物と無生物の間を知ったら次はこれを。