石原先生新刊

謎とき村上春樹 (光文社新書)

謎とき村上春樹 (光文社新書)

石原先生の書物の一貫したテーマは、いかに自分が生きている時代を

相対化して眺めるか、ということだと考えている。

今回の『謎とき村上春樹』でも、そのテーマは引き継がれている。


百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

「百年前」の男と女。

その姿を明治時代の雑書から読み取り、現代の私たちの姿と重ね合わせて論じた書物。

この本を読んで身につまされた思いを抱く人も多いだろう。

陰謀論や占いがはやるのは、世界・人生がいかなる原理原則によって

成り立っているのかを知りたい欲望から来ているのだとすると、

「百年前」も「現代」も、男と女は「ほとんど同じ」生活を送っていることを

暴いたこの書物は、「歴史は繰り返す」という言葉の通り、

ほとんど冗談にしか思えない今の私の生活が、

「冗談」などではさらさらなく、

「百年」も前に生きられていたことが分かり、

自分こそ「特殊」で「劇的」な人生を生きていると「錯覚」

している我が身を振り返るいいきっかけになった。


石原先生の新刊が、『謎とき村上春樹』であることに注意しよう。

村上春樹の謎をとく、それは、村上春樹が「世界性を獲得している」

「この時代」=「いま」を読み解くことに他ならない。

なぜ「みんなは村上春樹が大好き」なのか?


それを読み解く鍵の一つが、例えば「ホモソーシャル」という概念であり、

「自己神話化」という概念である。

藤原紀香の結婚があれほど話題になったのは、

日本がいかに「ホモソーシャル」な社会であるかを表している。

また、リストカットがこれほど「流行る」日本という社会は、

その都度「殺している」自分という存在が回帰する瞬間を味わうことが、

当人のアイデンティティーとなっていることを表している。


自分の生きる時代が、いかなる「思想」下にあるかを知ったからと言って、

それがどうしたといわれれば、こう答えよう。

知らないことを、知らないままでいるより、

「知った」上で、それを選択するかしないかを決断する知性こそが、

今求められているのだ、と。