『反転』覚書

 特捜部では、まず操作に着手する前に、主要な被疑者は関係者を任意で何回か調べ、部長、副部長、主任が事件の筋書きをつくる。そして、その筋書きを本省である法務省に送る。東京の特捜事件は、そのほとんどが国会の質問事項になるため、本省は事前にその中身を把握しておく必要があるからだ。
 特捜部と法務省のあいだでこのやり取りを経て、初めてその筋書きに基づいて捜査をはじめる。むろんいくら事前に調べても、事件の真相は実際に捜査してみなければわからない。実際に操作をはじめてみると、思いもしない事実がでてくるものだ。だが、特捜部では、それを許さない。筋書きと実際の捜査の結果が違ってくると、部長、副部長、主任の評価が地に堕ちるからだ。だから、筋書き通りの捜査をやって事件を組み立てていくのである。
 最初からタガをはめて、現実の捜査段階でタガと違う事実が出てきても、それを伏せ、タガ通りの事件にしてしまう。
 こうして筋書き通りに事件を組み立てていくためには、かなりの無理も生じる。調書ひとつとるにも、個々の検事が自由に事情聴取できない。筋書きと大幅に異なったり、筋書きを否定するような供述は調書にとれない。調書には、作成段階で副部長や主任の手が入り、実際の供述とは違ったものになることも多い。だから、上司の意図に沿わない調書をつくっても、必ずボツにされる。なにより、まずは筋書きありき。検事たちは尋問する際も、筋書き通りの供述になるよう、テクニックを労して誘導していく。(178〜179)

 こういう仕事を出来る人間が、「できる」ビジネスマンといわれるのだろう。