石
『神の子どもたちはみな踊る』(村上春樹著)の中で私が特に好きなのが、
「タイランド」という短編である。
この作品のキーワードは、「石」である。
特に印象的なのは、以下の文章。
≪今は我慢することが必要です。言葉をお捨てなさい。言葉は石になります。≫
(『神の子どもたちはみな踊る』新潮文庫、144p)
私は今日、会社を辞めた。
直接の原因は別にあるのだが、一つの原因を挙げるとすればそれは、
体に「石」が出来たからである。
尿管結石という病気をご存じだろうか?
文字通り、尿管に石が詰まって、激痛を生じさせる病気である。
半端なく痛い。
入社以来私は、尿管結石で2回入院することになった。
尿管結石になった要因は何か?
よく分からない。
その原因を推測してみると、どうやら村上春樹の小説に「こたえ」がありそうだ。
村上春樹は、≪言葉は石になる≫という。
その通りだ。「言葉は石になる」。
村上春樹が会社員にならなかった理由が、今になって分かる気がする。
会社員というのは、会社の論理にしたがって、「嘘」も「真」として書いたり、
また発言しなければならない。
しかし、そうした空虚な言葉は、「石」となった自分の中に固まっていく。
私は入社以来、そうした空虚さを抱えてきた。それが、「石」となって
現れたのではないか?そう考えている。