村上春樹の短編を再読する
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/11/27
- メディア: ペーパーバック
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村上春樹さんの短編を、久しぶりに読み返してみて感じるのは、
「自分に身に降りかかってきた、どうしようもない・理不尽な出来事を、それでも抱えていきていかなければならないとき、人はどのような態度をとり得るか」
ということです。
たとえば、「バースデイ・ガール」という短編では、20歳の誕生日にかけられた一言が、その後の運命を変えてしまうことを描いています。
また、「スパゲティーの年に」という短編では、「スパゲティーをゆでているから、電話を切らなければならない」という嘘をつくことで、スパゲティーを食べるたびに嘘をついた相手のこと、そしてその年を思い出します。
私はとてもこうした描写に惹かれます。
「こうした描写」というのは、以下のようなことです。
①「その年」は、大量のパスタを茹で、食べていた。
②ある女性から電話がかかってきた。
③めんどうにかかわりあいたくなかった僕は、「スパゲティーを作っているから」と嘘をついて電話を切った。
④嘘をつかず、正直に彼女に事実を伝えればいいのではないかと悩んだ。
⑤それ以来、スパゲティーを食べると、当時のことを思い出す。
「スパゲティー」というのは隠喩で、つまり「彼女」の表象です。
彼女を不幸にしてしまったのではないか、という後悔を抱えたまま生きていくことが、彼にとっての倫理です。
しかしどうしようもない。
起きてしまった。
それを抱えて、今も生きている。