相対性理論特集

STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2009年 07月号 [雑誌]

STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2009年 07月号 [雑誌]

 今月の特集は、相対性理論

 もちろん、アインシュタイン相対性理論ではありません。


 相対性理論については、いつか語ってみたいと思っていました。

 確かにこのバンドには、語りたくさせる「なにか」がある気がします。


 それは何でしょうか?

 
 人はなぜ、その対象を語りたくなるのか?

 まず、こうした問いを立ててみましょう。

 
 例えば、私たちは、食パンについて、特に語るべき何かをもっていません。

 友人と、膝と膝を突き合わせて食パンについて語るなんて、

 ちょっと想像できませんよね。

 では、それはなぜでしょう。

 一言でいえば、それがあまりにも自明すぎるからです。

 当たり前すぎるもの、分かりきっていると思えものを、私たちは語りません。

 「食パン」という概念を通して分かっているという幻想を、何度も反復

 しているうちに強固なものにしているのです。


 準備は整いました。

 ところで、今月号のSTUDIO VOICEの書籍紹介コーナーでは、

 円城塔が、JFバラードの有名な一文を引用しています。

 「真のSF第一号は、記憶を失った男が浜辺に横たわり、

 錆びた自転車の車輪を見つめ、その車輪と自分との関係のなかに

 ある絶対的本質をつかもうとする、そんな物語になるはずだ」


 相対性理論とはつまり、JFバラードの象徴的な言葉を、

 この現実界に再現したような存在である。

 このように定義して良いかと思う。

 
 意味がなさそうで、実際は本当に意味がない言葉の羅列。

 意味を見出そうにも、どうにも解釈できない言葉の羅列。

 これこそ、健忘症の人間が、文法も統語も無視し、言葉を

 並べ立てる様そのものではないか?


 さらに言えば、その紡ぎだされる言葉が、およそ尋常ではない。

 それは錆びた自転車さながら、人の目につきならが、

 忘れ去られる風景そのものではないか。

 
 相対性理論は、言葉の文法と、世界の文法双方を無視し、

 自分独自の世界をそこに立ちあげている。