『第9地区』感想

さて、『第9地区』ですが、最初から最後まで気持ち悪い映画でした。最後の感動的なシーンでさえも、気持ち悪さでいっぱいでした。はっきり言って、映画を観終わってからも、「すっごい良かった!」「久しぶりに映画館に行って、こんな良い映画を観られるとは思ってはいなかった!」と思えるような映画ではありませんでした。せっかくの休みの日に、こんなひどい映画を見せられるなんて、とも思いました。しかしそのひどさとは、『20世紀少年』を観たときに感じる「金返せ!」的なひどさではなく、自分自身の異形のものに対する不寛容さを突きつけられるつらさから来るものだと思います。
 徹頭徹尾感情移入できない。映画内で描写される、エイリアンを使って研究をするアメリカ企業の実態は、それはそれでひどいことだと分かるのですが、だからと言って、エイリアンのあのひどい外見が映し出されると、思わず気持ち悪くなって感情の共有を拒否してしまう。倫理的、論理的には100%エイリアンに賛成するのですが、あの外見を見ると「やっぱ地球から出てってくれよ」と思ってしまいます。
 自分の生活を振り返ったとき、今後日本に移民が大量移入してきたときに、自分と外見の違う外国の人々がが身近にいる環境に耐えられるのかって、深く考えさせられてしまいました。そのため、映画を観終わった後、しばらく呆然としながら街をふらふらしてしまいました。外見が違うだけで感情の共有を拒否してしまう不寛容さに対して、どう対峙していいのか分からなくなりました。
 『第9地区』という映画がアメリカで作られるという事実に、アメリカ社会の凄みを思わずにはいられません。社会が直面している「他者」との遭遇に対して真摯に向き合う姿勢に脱帽です。この映画は万人にはお勧めできませんが、社会に対して少しでも真面目に考えようという姿勢がある人には、「お勧めです!」という感じでしょうか。